2017.11.13

”悩みぬくことを楽しめる人”が向いている!? |アートディレクター 田渕将吾 / 鈴木慶太朗【講義レポート Vol.04】

※横瀬クリエイティビティー・クラス《講義編》とは。
2017年7月から10月にわたり、中学生を対象にクリエイティブ職の仕事内容や考え方を紹介していく取り組み。自分の好きなことを、どうやって”仕事”に繋げていくか、どのような”技術”を学べば良いのか。映像作家(脚本家)/アートディレクター/ディレクター・プロデューサー/写真家/ライター(編集者)/エンジニア/音楽家/プロダクトデザイナー/イラストレーターなど都内で活躍する全9職種のクリエイターたちが講師として授業を行ないます。クリエイティブソンにはじまった横瀬クリエイティビティークラスの最終的な成果発表に向けて、クリエイティブそのものへの理解と技術の強化が目的です。

いよいよvol.4を迎える横瀬クリエイティビティー・クラス《講義編》のレポート。今回は都内のクリエイティブエージェンシー、AID-DCC Inc.でWeb、映像、音楽と多方面でアートディレクターとして活躍する田渕将吾さん、デザイン性に優れたWebサイトを数多く制作し、海外アワードも多数受賞しているSHIFTBRAINで同じくアートディレクター / 海外支部マネージャーを務める鈴木慶太朗さんが講師となって授業を行いました。

中学生たちの中でも、特に「どんな仕事なのかイメージが湧かない‥」という声の多かったアートディレクター。ベテランであるお二人が、丁寧にその仕事ぶりと魅力を明らかにしてくれました。

誰に、何を、どんな色で、形で伝えるのか?目的に向かってチームを導く、表現の監督者|アートディレクター編 前編

最初の授業が実施されたのは、横瀬中学校では体育祭準備真っ只中の9/1(金)。時折グラウンドから聞こえてくる生徒たちの掛け声を背に、いよいよキャリア教育授業 アートディレクター編の始まりです。

まずはAID-DCCの田渕さんが、「アートディレクターっていったいどんな仕事をしている人なの?」ということをお話ししました。

AID-DCC Inc. アートディレクター 田渕将吾さん

私たちの身の回りに溢れる、あらゆる広告や商品。たとえばCDジャケットひとつをとっても、カメラマン、イラストレーター、デザイナーなど、多くのクリエイターが関わります。彼らをとりまとめ、「表現」をリードしていくのがアートディレクターの仕事なのだそう。

「目的からブレないように、目指すべきゴールを設定し、そこまでの道のりを紐解いて具現化し、みんなを導いていく。つまりは“表現の監督”となるのがアートディレクターです」

身近なアートディレクションの例として田渕さんが用意したのは、お菓子のパッケージや時代によって変化してきた絵本の絵柄。

例えば、大手のお菓子メーカーは改めてその品質とこだわりを伝えるため、パッケージは高級感のあるデザイン・質感のものにしていたり、別のメーカーでは、長年パッケージに登場させていたイメージキャラクターを現代の子どもたちの趣向に合わせて世代交代させていたり…。

それぞれのパッケージが作られるまでの背景や目的を解説した上で、「どのパッケージにも、根本にあるのは“その商品をたくさんの人たちに知ってほしい、気に入ってほしい”という想い」だと説明。


お菓子のパッケージ一つとっても、その裏には「手に取りたい!」と思わせるためにはどうしたらよいのかを考え抜いたアートディレクターの存在があります。

「だからこそいつも、アートディレクターは届けたい人たちのことを考えながら、これまでにない新しい表現に挑戦し、ビジュアルで世の人々の関心を集める、つまりはムーブメントを起こそうとしています。それによって商品が広まって、手に取った人たちが良い体験をしてくれたなら、これ以上嬉しいことはありません」と、仕事のやりがいを語りました。

得意なこと、好きなことの延長線上に、アートディレクションのヒントがある

では一体、どのようにして田渕さんはアートディレクターとなったのでしょうか。

もともと子どもの頃から絵は好きだったけれど、中学・高校では吹奏楽部に所属し音楽に熱中し、専門学校では就職のためプログラミングを学んでいたという田渕さん。

就職先は音楽かプログラミングのどちらかが活かせる会社に、と考えていたところ、就職活動のタイミングでやはり自分がやりたいことはデザインなのだと気づき、未経験からWebデザイナーとしてのキャリアをスタートさせました。

「最初の5年ぐらいは、それこそ人に見せられるようなものなんて作れていなかったと思う」と当時を振り返る田渕さん。

10年ほどキャリアを積んだタイミングで、つくっているものをさらによくするために、これまで自分が好きだった音楽やイラストなどを加えていけないだろうか?という構想が自然と生まれてくるようになったそう。そのような意識の変化をきっかけに、Webデザインのみならず、より幅広い領域をディレクションできるアートディレクターをキャリアステップの一つとして選び、様々な仕事を手がけるようになったのです。

「何か一つをずっとやり続けていたりすると、ある程度はできるようになってくる。そうすると、他の誰かとコラボレーションして“自分一人ではできないこと”がしたくなるんです」と田渕さん。

「結局、好きだったイラストや音楽も、全部が今の仕事に活きています。アートディレクターの扱う領域は本当に多岐にわたるからこそ、未経験でいきなり挑戦するのは難しいかもしれません。けれど、どんなことであっても何かを積み重ね続けていれば、その分ディレクションできる領域が広がり、アートディレクターとしての仕事の幅も広がっていくのだと思います」

“好きなことを仕事にするために必要なこと”教えます

田渕さんから、アートディレクターとは?というお話を伺ったところで、ここからはSHIFTBRAINの鈴木さんにバトンタッチ。鈴木さんがお話ししてくれたのは、「好きなことを仕事にして、それを楽しく続けていく方法」についてでした。

「中学受験してから、将来のことは一回も考えず、大学に入学して就職して、企業の会社員になると思っていた」という鈴木さん。現在のキャリアを歩む大きなきっかけとなったのは、なんとなくで仕事を選ぶぐらいならばと、大学時代に就職活動をしないという決断をしたことでした。

「なんとなく就職をして、好きではないことを定年まで続ける自信がなかった。やるならば世界で通用するスキルで仕事がしたかったし、なにより人生一度きりなので、後悔したくありませんでした」と鈴木さん。

そこからは面白そう!と思ったことはなんでもやってみて、面白そうな人にたくさん会うようにしたそう。

そうして鈴木さんは皆が就職活動を始める時期に、ひとりグラフィックデザインの学校へ通い始めます。そして、大学卒業後しばらくはフリーランスとして、のちに友人の会社に入り、デザイナーのキャリアをスタートさせたのです。

それらの経験を通して鈴木さんが発見した「好きなことを仕事にするために必要だったこと」。それは“とりあえず面白そうなことは挑戦してみる”、“同じ価値観を持つ友達をたくさんつくる”という2つでした。

「毎回のキャリア教育授業に参加してくれているみんなも、すでにひとつの同じ興味関心を持つ仲間です」と鈴木さん。

「好きなことをしていくには、この2つが必要不可欠です。おもしろそうだと思ったら、失敗しても良いからためらわずにやってみること。そして価値観が同じ友達との関係は、その後の楽しい仕事やおもしろい出来事に繋がっていくんです」

“自分らしさ”が好きな仕事を続けていくための武器になる

そして鈴木さんからもう一つ、「好きなことを仕事にした後、それを続けていくために必要なこと」のアドバイスが。

それは“自分ならではのオリジナリティーを持つ”こと。

鈴木さんはデザイナー時代、スランプに陥ってしまったことがあるそうです。何を作っても、クライアントに気に入ってもらえない、自分でもしっくりこない‥そんな時期に、尊敬するデザイナーを見ていて気づいたのが、みんなそれぞれオリジナリティがあるということでした。

そこで、自分が大学で学んできた経済学の知識とデザインの知識を融合。そこから自分のオリジナリティが生まれ、鈴木慶太朗ならではのデザインにつながり、クライアントからの信頼も回復。スランプから脱出できたのだそうです。

人の真似ばかりではなく、“自分だからできること”を作っていく。どの仕事をやる上でも、それが「より多くの人に必要とされ続ける=その仕事を続けていける」ことにつながっていきます。

高校や大学の友達と会うと「仕事がつまらない」という声を本当によく聞くという鈴木さん。
「一度就職してしまうと、やめて全く違う仕事を始めるのにはかなりエネルギーがかかります。つまらないと思ったまま、30年ほど同じことを続ける。そんなのいやですよね?だからできるだけ早いうちに自分のしたいことを絞っておけると、きっと明るい未来が待っていると思います」

最後には「今日お伝えした3つのこと、覚えていますか?それらを頭の片隅に置いて、たまには将来のことを考えてみてください」と子どもたちに投げかけ、その日の授業を締めくくりました。

世の中の“イケてるデザイン”がつくられるまで|アートディレクター編 後編

アートディレクター編 後編の授業が行われたのは、秋も深まってきた10月20日(金)。
今回はアートディレクターの仕事のひとつである「デザイン」についてのワークショップです。

まず鈴木さんは、デザイン界を牽引している有名人の言葉を引用しながら、デザインの定義について解説しました。

「『デザイン』と聞くと絵を描くこととイメージしがちですが、『伝え方を整理して、それをビジュアルで表現し、ひとに伝わるものを作っていく』ということがデザインの定義。

日本で4半世紀トップを走り続けるグラフィックデザイナー原 研哉氏が『デザインとは技能ではなく物事の本質を掴む感性と洞察力である』と語っているように、あくまでも絵を描くことはデザインの一部なんです」

・・・この定義だけ聞くと、中学生には難しい内容かもしれません。そこで、デザインの定義を、体感して理解してもらうためのワークショップがスタートしました。

デザインの定義について真剣に聞き入る中学生たち

商品の “イケてない” ポイントを探そう

実は前回の授業で、「自分がイケてないと思うデザイン(商品)を持ってくる」という宿題が出ていました。今日の授業で講師の2人が用意したワークシートを元に、それらを自分たちの手で「イケてるデザイン」に作り変えていきます。

生徒たちが持参したのは、「虫さされ薬」・「メガネ」・「洗剤」の3つ。まずは、「そのデザインのどこがイケてないのか?」をみんなで話し合いました。

商品に合わせ生徒を3グループに分け、アドバイザーとして大人も1人ずつ入ることに

早速生徒たちは3つの商品をいろんな角度から眺め、じーっと見つめながら、大人と一緒に考えます。少しずつ、「この色がダメなのかな・・・?」「フレームのこの形かなぁ?」などと、ぽつりぽつりと意見が出てきたところで一旦ストップです。

魅力のあるデザインとは

悩む子どもたちに鈴木さんが考え方のヒントになる「魅力のあるデザイン」について、3つのポイントを伝えます。

【1】 本能レベルで感じるデザイン
外観やビジュアルに関わる、見た瞬間当たり前・直感的に思うデザイン

【2】行動レベルで感じるデザイン
iPhoneのように世界中で売れているような使いやすさ、情報設計、機能のあるデザイン

【3】内省レベルで(後で思い出して)感じるデザイン
連動、個人的な思い出、文化が関わる部分のデザイン。たとえばビックリマンチョコのように「昔集めてたな〜」と懐かしくなったりする、これも1種の内省レベルで感じるデザイン

田渕さんによると、デザイナーとしても3番目の「内省レベルで感じるデザイン」が一番難しいのだとか。

優れたデザインをつくるために考慮すること

また、デザイナーがデザインをする前に必ず考慮することも語りました。それは、誰に向けて?目的はなにか?そのためにどういう機能があるといいか?という3点。

WHO(世界保健機関)の事例を挙げ、鈴木さんは続けます。

彼らは衛生環境が良くない発展途上国の子どもたち(=誰に)のために、おもちゃを入れた石けんをデザインしました。子どもたちがおもちゃを出すために必ず石けんをこすって手を洗う状況をつくりだし(=機能)、衛生面の改善をすること(=目的)に成功したのだそうです。

このエピソードには見学に来ていた大人からも驚嘆の声が。優れたデザインによって衛生問題という社会問題をも解決したという事実を聞き、教室にいた全員がデザインの重要さを理解したようでした。

さぁ新しく “イケてる” デザインを考えてみよう

優れたデザインをつくるためのヒントを教えてもらったあとは、早速実践です。

用意されたシートを使って、その商品がなぜイケていないのか、またその商品を新しく作り変えるとしたらどうするか、ターゲット、内容・機能、ビジュアル表現の視点から考えていきました。

しかし、新しいデザインの考案に苦戦している様子だったので、鈴木さんが「実際に手を動かしてシートにそれぞれなにか書いてみたらもっとアイデアがでてくるかもしれないよ」と一言。

各々手を動かすことで、次第に話し合いが活発に

鈴木さんの言うとおり子どもたちが各自シートに書き込んでいくと、グループ全員で話し合っていたときよりアイデアがたくさん出てきました。各々のアイデアをグループ全員で共有し、まとめ、3チームの考えぬいた新しいデザインの発表です!

● 10代から20代の若者が持っていてもかっこいい、だけど少し懐かしさも感じさせる「もろこしヘッドのついた水色の平たい容器に入った虫さされ薬」

● メガネフレームが鼻と耳にあたって痛いという悩みを解決するための、「フレームの上と下に磁石がついている、鼻と耳にあたらない顔から浮くメガネ」

● 夜遅くまで働き、夜中に部屋干しをするお父さんを労わるお疲れさま要素満載、「『ありがとう』などのメッセージつきのタバコの形状をした容器に入った、黒と銀で光る洗剤」

大人には考えつかないような、結果的に大人たちの予想を良い意味で裏切る、ユーモアのあるアイデアが出てきました。

初期の頃より、自分の意見を臆さず発言できるようになった生徒たち

課題を解決できる優れたデザインは、絶望の積み重ねから生まれる

授業の最後には講師の2人から、生徒たちに向けてのメッセージが。

「デザインは、いろんな課題があるものを解決するためのもの。今日みんながたくさん考えたように、答えはいっぱいあって、ひとつじゃない。その商品を使う人を想像して、いっぱいある答えの中からどれが一番喜んでくれるかなと考える。世の中にあるイケているものは、そういうところをデザイナーがしっかり考慮しているので、使いやすい」と田渕さん。

鈴木さんはデザインを生み出すまでの苦労を語ります。

「今日みんなが体験したように、デザイナーはデザインを作り出すまでにあらゆることを考えるけれど、良いアイデアが思いつかないことも多くて絶望だらけ。そのあと寝て、起きたら突然これだ!とひらめくことも多い」

この言葉には田渕さんも深くうなづいていました。

今回の授業でアートディレクターの2人が子どもたちに伝えたかったこと。
それは、優れたデザインをアウトプットするため、デザイナーが商品をどう観察し、どのような思考回路で、どれだけ考えぬいているのか中学生に知ってもらうことでした。

生徒たちはこの日のワークショップを通じて、デザインの大切さや身近にあるすべての商品がデザイナーの生みの苦しみによって出来上がっていることを実感できたはずです。

アートディレクターという職業の理解度が深まったら嬉しい

2回の授業を終えて、「クリエイティブソンの頃から比べて、成長した中学生の姿に驚きました。自発性や創造性が格段に上がっていて、今までのプログラムを通じて良い影響があったのではないかと思います。アートディレクターといっても仕事の仕方は十人十色なので、この職業の一般的な部分を伝えるのが意外と難しかったですね」と、鈴木さん。

田渕さんは、「仕事内容の理解だけでなく、アートディレクターを『憧れの仕事』として捉えてもらえるように、どう説明したら良いか悩みました。働き方や、身近な作例を知ってもらったり、デザインのプロセスを体験してもらうことで、少しでも興味を持ってもらい、憧れの仕事のサブサブサブ候補くらいに考えてくれる子がいてくれたらとても嬉しいなと思います」と語りました。

今回のキャリア授業を通じ、中学生たちは多岐に渡るアートディレクターの仕事を具体的にイメージできたのではないでしょうか。大人顔負けのデザインを考え出した彼らの中から、次世代のアートディレクターが輩出される日も近いかもしれません・・・!

vol.5は「プロダクトデザイナー / イラストレーター編」!
ALLOY代表のプロダクトデザイナー山崎勇人さん、SCHEMAのイラストレーター岡永梨沙さんが講師として登場します。どうぞお楽しみに!

著者:樋口あるの(AID-DCC Inc.)、松沢香織(SHIFTBRAIN

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