2017.11.9

アイデアを物語に変換する技術「脚本術」を学ぼう!|映像ディレクター田村祥宏【講義レポート Vol.03】

プロデューサー、プログラマー、音楽家と続いてきた横瀬クリエイティビティー・クラス《講義編》。第四回目となる今回の講師は、映画表現にこだわった映像をつくっている、映像ディレクターのEXIT FILM inc. 田村祥宏さんです。
※横瀬クリエイティビティー・クラス《講義編》とは。
2017年7月から10月にわたり、中学生を対象にクリエイティブ職の仕事内容や考え方を紹介していく取り組み。自分の好きなことを、どうやって”仕事”に繋げていくか、どのような”技術”を学べば良いのか。映像作家(脚本家)/アートディレクター/ディレクター・プロデューサー/写真家/ライター(編集者)/エンジニア/音楽家/プロダクトデザイナー/イラストレーターなど都内で活躍する全9職種のクリエイターたちが講師として授業を行ないます。クリエイティブソンにはじまった横瀬クリエイティビティークラスの最終的な成果発表に向けて、クリエイティブそのものへの理解と技術の強化が目的です。

EXIT FILM inc. 映像ディレクターの田村祥宏さん


デジタル技術の進化により、映像制作がより身近になっているいまの時代。映像制作のプロである田村さんの講義で、中学生たちは何を学んで、感じて帰るのでしょう。

映像制作はワクワクする物語をたくさんの人と一緒に書き出していく仕事!ディレクターはその全工程に責任を持ちます。|講義前編

7/13(木)、教室に集まった中学生たちを前に、田村さんは問いかけました。
「いきなりですが、みなさんは映像ディレクターの仕事を知っていますか?」

突然の質問に、なかなか中学生たちの手が挙がりません。それもそのはず、私たちが何気なくみている映画やドラマの裏側にはどんな仕事があるのか、あまり知られていないことが多いのです。
プロデューサー、ディレクター、撮影監督、照明技師、エディター、録音、脚本…まずは映像制作に関わる役職を一つずつ説明していく田村さん。
その中でも映像ディレクターの役割は、関わる人全員が力を合わせて一つの作品をつくることに責任をもつ「映像制作の全工程における責任者」だと語りました。
「映像はいろんな人が協働して作り上げる総合芸術。映像制作はワクワクドキドキする物語を現実に描き出していく仕事です」と話す田村さん。
ひとつのストーリーをつくり、映像制作チームにイメージを共有するために必要なのが「脚本」。脚本とは「まだ世に存在しないストーリーを “現実に再現可能”にする、映像の設計図」であり、映像作品の肝なのです。
少年の頃から空想が好きで、自分の脳内のストーリーを目に見える形で再生したくて映画の脚本を描き始めたという田村さん。でもいざ書き起こしてみると意外とつまらないことが多かったそう。
ここで田村さんは強調します。
「アイデアは誰でも思いつく。それを価値のある物語にかえるには脚本術という「技術」が必要です」
さて、ここからは脚本術の基本的なルールの解説です。

とくに物語を書く上で、小説と比べて脚本特有のルールがあると田村さんは話します。
たとえば、目に見えない心理描写はしないこと。脚本は映像の設計図なので、「主人公は悲しい気持ちになった」などの記述は映像をつくるときには情報として役に立たないそうです。
それから、セリフを極力使わないことや、画面の枠を意識した描写をすること。
目にも耳にも訴える芸術である映像の特性をいかして、表現に工夫する必要がある、と具体例を交えながら田村さんはいくつか映像の表現技法を説明していきます。
映像の基本は、センスや最新の映像機材ではなくストーリーを正確に表現する「技術」だ、ということがわかる前半の講義内容でした。

物語を組み立てる技術なしにいい映像は作れない!プロに教わるはじめての「構成術」|講義後編

前半から一ヶ月たった、8/30(水)。暑さもまだ厳しい中、たくさんの中学生が再び集まってくれました。

いい映像にはいい脚本が肝心だ、という話で終わった前回。では、優れた脚本をつくるために欠かせない要素とはなんでしょう?

ーズバリ、構成だ!
と田村さんはいいます。
構成とは、シーンをつなぎ合わせて一つの物語を組み立てること。優れた映像は「起承転結」に代表されるような物語の繋がりと変化によって構成されています。どんな物語の流れにしたら作家の考えが一番に伝わるのか、そして観客が最後まで飽きないか。前回の講義で学んだ映像独自の表現を要素に入れながら、主人公の心情の変化を軸に考えるのが「構成術」だそうです。

黒板を使って映像脚本の基本「三幕構成」の解説をしていく田村さん


とくに脚本を書くときには、出来事とそれに対する主人公のリアクションを盛り込むことで自分の主張を表現していく、と田村さんは話します。
そしてこの日の後半は、前回の講義で紹介された観客をひきつける表現や脚本のルールも踏まえて中学生たちも短いあらすじを書いてみることに!
まずは、物語のきっかけとなる事件を考え、そこに至る経緯をひとつの流れとして描いてみよう、と指示をだす田村さん。
制限時間は15分。ポイントは、アイデアを並べるだけではなく、物語の繋がりと主人公のリアクションの変化を意識して「ストーリー」を組み立てること。
田村さんのはじめ!の合図で堰を切ったように中学生たちがアイデアを出しはじめます。

どんな主人公にしよう?主人公はどんな葛藤を抱えてるかな?ーアイデアは尽きません。


大人たちが聞いても難しい講義内容。中学生たちからどんなストーリーが出てくるのか興味深々。


「いきなりあらすじ全体を考えるのは難しいから、事件と主人公のリアクションを考えてみよう〜」、少しずつアイデアを出して一つの物語に組み立てていきます。


15分間のシンキングタイムが終わり、完成した物語をひとつずつ読む田村さん。はじめて作り手の視点から物語を描いてみて、中学生たちもなかなか苦戦したようでした。

どうやら田村さんの意図に沿った脚本はなかなかない様子。…講義で学んだ内容を盛り込みながらストーリーを描くって難しい !


ストーリーのアイデアは誰でも考えることができる。そして、それは「脚本術」という技術を学ぶことで、価値のあるストーリーに変えることもできる。でも裏を返せば、ストーリーを魅力的に見せるための組み立て技術なしにいい映像は作れない
ー そんなプロの厳しさと、まだみぬ世界をたくさんの人と描いていくワクワクが感じられる全二回の講義でした。

講義を終えて、「シナリオライティング(脚本術)は色々な仕事の基盤となる技術。実はクリエイティブなスキルは突飛なものではなく、こうして汎用性が高いスキルなのです。この横瀬クリエイティビティー・クラスを通じてクリエイティブ教育の楽しさや必要性を多くの人に感じてもらいたいと考えています。」と語る田村さん。
今回の講義は、横瀬クリエイティビティー・クラスのアウトプット制作のための基礎の授業。苦戦した経験はこれから行われるアウトプット制作で、必ず糧となるはず!アウトプット制作の様子もレポートする予定です。どうぞお楽しみに!
著者:Saya Terai(Exit Film

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