2017.12.5

考えや想いを探求し、表現の技術を学んで自分の「クリエイティビティ」を発見する|アウトプット制作*前編_1

4月に開催されたクリエイティブソンを皮切りに、都内で働くクリエイターによる職業を題材とした講義や職場訪問を中心に展開されてきたクリエイティビティー・クラス。最後にこれまでのプログラムの成果として、クリエイターたちと中学生の協働で横瀬町をテーマにした楽曲と映像を制作していきます。映像制作の実践教育を通じて、リーダーシップやディスカッションスキルなどさまざまな能力の育成が目的です。前編記事では作品の企画立案からストーリー構成、脚本化までの様子をお伝えします。

9/16(土)アウトプット制作1日目

アイデアは誰でも発想できる!〜発想の技術を使って作品の企画を考えよう〜

アウトプット制作初日となるこの日は、映像作品の企画づくりを行いました。
映像制作は撮影に至るまでに、企画制作、プロット(あらすじ)制作、脚本制作、そして絵コンテ制作と何段階も工程があり、今回は映像ディレクターの田村さんの指導のもと、7日間で作品の撮影までを行います。

撮影までに必要な作業。段階を踏んでストーリーを具体化していきます。

この日集まってくれた中学生たちと秩父出身のクリエイター橋本さん

短期間でクリエイターの英知を結集して行われるアウトプット制作。初日は作品のテーマを決める企画づくりです。

今回はファシリテーターの佐々木さんが用意してくれた発想のための仕掛けを使って企画のアイデアを出し合うことになりました。

「アイデアは量産、発想を恐れるな!」〜発想の仕掛けとは?〜

富士通総研の佐々木哲也さん。


 

佐々木さんはアイデアソン、ハッカソンの専門家。
アイデアソンとはアイデアとマラソンを合わせた造語で、特定のテーマについて参加者が対話を通じて新たなアイデア創出を短期間で行うイベントのこと。創造性を引き出す様々な仕掛けが盛り込まれています。佐々木さんのファシリテーションのもと、一日で映像作品の土台となるアイデアを抽出していきます。

まずは自己紹介を兼ねて、軽いブレーンストーミングからはじまりました。

アイデア創出のポイントはとにかく量産すること。

①批判厳禁、②他の人に便乗すること、③突飛さ歓迎、④質より量

自由な発想を促すために、佐々木さんがルールを設定します。

4つの原則に基づいて中学生とクリエイターが交ざってブレーンストーミングを始めると、最初はためらっていた中学生も競ってアイデアを出し合うように。

クリエイターと中学生といえど、ここではアイデアの優劣や正解はありません。
話し合いのルールや時間制限を設けたことで、アイデアが出しやすい場に変わってきました。

横瀬を舞台にした作品に〜横瀬にまつわるキーワードを出そう〜

備運動が終わったところでこの日の本題へ。
1日目の目的は、制作する映像作品のテーマを決める「企画づくり」。何のメッセージを、どんな切り口で表現していくか、作品の素を作る作業です。今回は映像の企画づくりを、その映像を象徴するシーンを描くことから広げていきます。

「脚本づくりをする時には起承転結の「転」から始めることが基本。映像作品のテーマを感じさせるところなので、ストーリーを考えるときには、はじめにこれから目指すテーマをはっきりと定めよう。」と田村さんが解説します。

ただ、いきなりシーンを思い浮かべるのは難しいので、まずはキーワードを出し合い、それらをカードにして組み合わせることで、全く新しい世界に1つだけのシーン(企画)を作ることに。

さらに今回は、「関わった中学生たちが後から振り返ったときに横瀬からできたことを誇りに思える作品にしたい」というクリエイターの要望により、横瀬にまつわるキーワードを出し合うことになりました。このように、企画の段階で入れ込まなくてはいけない要素が決まっていることは実際の映像制作の過程にも通じること。クライアントがいることを想定し実践することで、よりリアルな映像制作の環境を体感してもらいました。

まずは横瀬町の大きな地図をを組み立てながら横瀬にまつわるキーワードを連想し、付箋に貼っていきます。

まずは全員で協力して地図を組み立てます

周りと会話しながらキーワードをペタペタ。「ここ行ったことない〜!」慣れ親しんだ町でも知らない場所を発見することも。出てきたキーワードは横瀬町の名山、武甲山や地元で有名な心霊スポットなど様々です

地図や付箋を使うことで、アイデアが可視化され話し合いが活性化!出てきたキーワードはこれから描くシーンの舞台となります。

さらに、シーンの細かい設定となる要素を描き、イラストカードを作っていきます。

参加クリエイターも「青春から連想するもの」をイラストに。青春真っ只中の中学生たちに刺激され、筆が進みます。

「物語は非連続の方が面白い」〜異質なカードを組み合わせてシーンを描く〜

完成したイラストカードは地図から連想した場所カードと組み合わせて、中学生一人一人に渡されました。この3枚組のカードをもとに、映像のテーマを決める「転」のシーンを想像し、書き起こしていきます。

「サンドバッグ」「打ち上げ花火」「チョコレート」「棚田」など脈略のないキーワードを組み合わせてシーンを考える中学生たち。想像力が求められます。

映像のストーリーには殆どの場合ジャンルが存在します。ラブストーリー、アクション、ホラーなどのジャンルを設定し、それに合わせてストーリーを発想していきます。これはラブストーリーの例。

実は、このカードを組み合わせてシーンをつくる作業には、映像ディレクター田村さんの狙いがありました。「物語は非連続の方が面白い」 と考える田村さんは、はじめにオチや教訓をつくったりせずに、企画の段階では自由に発想してシーンを描写する練習を中学生たちにして欲しかったようです。

参加クリエイターと中学生は互いに意見を出し合いながら、シーンを形にしていきました。
このときクリエイターは決して教えたり誘導することはしませんが、脚本制作の観点から意見を伝えます。このように客観的に評価したりアイデアを吟味することも、ものづくりにおいて大事な工程です。

「これはラブストーリー?それとも友情の話?テーマははっきりさせよう」脚本づくりの観点からアドバイスをしていく田村さん。

中には難しい組み合わせのカードも。クリエイターが声をかけ、一緒に考えます。

完成したシーンは、最後にお題ごとに発表していきました。

自分のつくった話を人前で発表するのは初めての中学生が多く、発表には恥ずかしさが見え隠れしていました。

創造することは特別な能力じゃない。〜「クリエイティブ」って楽しい!〜

この日を終えた中学生たちからは、

・「物語をカードから考えるのが難しい」
・「ロケーション、要素、全く関係ない事柄を組み合わせて物語を作れることが面白いと思った」
・「突飛なカードから刺激を受けて物語を作るのが楽しかった」
・「皆で意見を出し合えて自分にない考えを知るのが楽しかった」

など様々な反応がありました。そして、はじめは自信がなさそうだった生徒たちが自由に発想していく姿をみて、参加したクリエイターたちも刺激を受けたようです。

・「自分ではも考えもしないシーンや物語が飛び出し、非常に刺激された」
・「改めて横瀬を見つめなおし、知らなかったことを学ぶこともできた」
・「一日で中学生がシナリオを描けるところまで一気に成長したことに驚いている」
・「自分で作った話を臆することなく、人に話す姿が素晴らしかった」

という声が寄せられました。

これまでは講義形式がメインだったクリエイティビティー・クラス。この日は、4月に行われたハッカソン以来、はじめてクリエイターと中学生たちが対等な立場で協力しながら表現する機会となり、それぞれの立場で気づきがあったようです。

創造力は一部の人が持っている特別な才能ではなく、アイデアは仕掛けを使ったりまわりと協力しながらうまれるもの。中学生たちにとってクリエイティブなプロセスやクリエイターがより身近な存在になった一日ではないでしょうか。

9/17(日)アウトプット制作2日目

「生みの苦しみ」は対話を重ねて乗り越える!〜町民・クリエイター・中学生が総出で行う「あらすじ」づくり〜

前回は横瀬にまつわるキーワードを組み合わせて、物語のテーマとなるシーン(作品の企画)を考えました。アウトプット制作二日目は、さらにそのシーンを具体化するために、「プロット」と呼ばれる作品のあらすじを作っていきます。横瀬町民の参加者も増え、賑やかな雰囲気の中、スタートしました。

シーンから物語を描いていくためには、脚本家の技術が必要ということで、はじめに映像ディレクターの田村さんが脚本術の基本を解説をします。

ストーリーは作家のセンスによって作られるのではなく、物語を構成する細かい要素を設定しながら組み立てていくもの。脚本は前日にみんなが考えた「転」のシーンに到るまでの葛藤や対立を描いていく」と田村さんが説明を続けます。

あらすじを構成する要素の関連図。

次に田村さんは、あらすじを書くために設定しなければいけない「物語の要素」を説明し、それらを考え、書き出すよう中学生たちに課題を出しました。

中学生たちが使った記入用紙。①主人公の内的な欲求 ②それを満たすために取らなくてはいけない外的な行動 ③敵対者(壁)④主人公の人物像などを設定しながら物語を具体化していきます。

※1)「内的欲求」とは、あの女の子が好きとか、自分の生きる意味を見付けたいなどの主人公の心情のこと。

ここからは各自「あらすじ」づくりの作業です。この日は約8時間、中学生たちは参加している大人の力を借りながら、一人一人のストーリーづくりに励みました。

難なく文字におこしていく人もいれば、手がとまってしまう人も。

大人たちも各テーブルに散らばって中学生のサポートをします。「ここは何を表現したいの?」対話を重ねて一緒にあらすじを具体化します。

悩む中学生と同じくらい悩む大人たち。「書きたい」という生徒の思いに答えるため、とことん付き合います。

途中で頓挫しながらも、大人たちのサポートやフィードバックもあり、全員があらすじを書き終えることができました。

推敲を重ねた跡が残る生徒たちの記入用紙。ストーリーを悩み抜いた様子が伺えますね。

完成したあらすじは一人ずつ全体の前で発表しました。

発表では一人一人が全体から質問やフィードバックをうけ、さらに深堀していきます。

「一番表現したかったのは何ですか?」「この話は自分の個人的な体験に基づいているの?」ー興味津々に物語の背景まで掘り下げる大人たち。

質問を受け、中学生たちは自分の思いや作品のイメージを深めていきます。

発表されたあらすじは、それぞれの中学生の思いや感じ方が表現された個性豊かな内容に。

一緒に悩み、サポートしたクリエイターや町民の大人も、形になったあらすじをきいて嬉しそうな表情を浮かべていました。

全員の発表が一通り終わったところで、アウトプット制作2日目は終了。最後に全員でこの2日間を振り返りました。

「自分が好きな脚本づくりにみんな真剣に取り組んでくれて嬉しい。『物語をつくる』教育があまりされていない日本では、みんなはトップレベルのストーリーテラーだと思う」と話す田村さん。

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参加した生徒の母親は、「全然かけなくても真剣に向き合っている息子の姿をみて、この歳でうみの苦しみを経験できるってすごいと思った」と話しました。

実は地元の大人たちからも、クリエイティビティー・クラスの意義を感じる声があがっています。クラスに参加してから子どもがピアノを習いたいと言ってきたというお母さんは、「はじめて自分から何かをやりたいと自己主張してきた。それをきっかけに自分も子どもとコミュニケーションを積極的に取るようになった」と話していました。

この日は生徒たちから他にも、「最初は本当にかけるか不安だったけれど、楽しかった」「少し書けなかっただけでイライラしたから、脚本家って大変」という感想があり、ものづくりやアイデア創出の楽しさと苦しさの両面を実感したようでした。

中には「普段こんなに考えることがないけれど、ストーリーづくりならいくらでもできる」と話す中学生も。それに対して参加クリエイターたちは、「今日楽しかった人はこれを仕事にしたらお金にできることを知ってほしい」「はたらくことは我慢をすることではなくて、やりたいこと突き詰めていくこと」と話し、「働く」ということやクリエイティブな仕事について考えるきっかけになったことを喜ぶ姿を見せました。

中学生が考えたあらすじと作品への思い。

この2日間を通して、クリエイター・町民・中学生の間で対話を重ねることで、映像作品の基盤となるあらすじが完成しました。ここからあらすじを脚本と絵コンテに書きおこしていきます。

9/23(土)アウトプット制作3日目

自分の「想像」をストーリーに。〜イメージを立体化する脚本と絵コンテ制作〜

作品の基盤となるあらすじができたところで、次に2日をかけて脚本と絵コンテ作りを行いました。前回考えたプロットは物語のあらすじ、いわば頭の中で作りあげたイメージをそのまま書き出したもの。ここから脚本と絵コンテを作り、イメージを具体化して、紙に頭の中の情景や人物を定着させていきます。

脚本と絵コンテは映像の設計図。作業に入る前に、田村さんから「抽象的な描写や登場人物の心理描写は書かない」などの映像特有の脚本術を解説します。

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脚本は決まった形式で原稿用紙に書いていきます。ルールを解説する田村さん。

まずは脚本の書き方の基本を覚えるために、田村さんが用意した短いプロット(あらすじ)をもとに練習で書いてみることに。

田村さんが古川日出男氏の短編小説から抜粋したあらすじ。これを映像で思い浮かべて必要な情報を脚本形式で原稿用紙に書きおこしていきます。

ポイントは「夏休み中のある日」は映像でどう表現できるか、慌てた男子学生の描写はどんな映像を使うのか、など常にカメラのレンズから見た表現をするように意識すること。「とにかく映像を思い浮かべながら書くこと!」としきりに田村さんが伝えます。

原稿用紙5枚を目の前に、中学生たちは少し不安そうな表情を浮かべていましたが、何事も実践あるのみ。田村さんの手を借りながら、少しずつ原稿用紙を埋めていきます。

まだ暑さが残る教室で、真剣な表情で書き続ける中学生たち。

田村さんのアドバイスをうけ、中学生たちの表現が少しずつ広がっていきます。自分の発想や思いを形にする表現が増えるとイメージが膨らみ、楽しさが増すようです。脚本を書く筆にも、一層力が入ります。

はじめて本格的な脚本作りを体験した生徒たち。小説的な表現になったり、表現が一定になってしまったりと、課題はたくさんありましたが、いざ原稿用紙に書き起こしてみると、意外にもプロらしさが出ており、生徒たちも誇らしそうでした。

脚本の基本的な書き方を学び、このあとは前回までに各自が考えたあらすじを脚本に書きおこしていきました。

前の週に必死で考えたあらすじ。そのあらすじをどう描写したら的確に観客に伝わるか懸命に考え、手を動かす中学生たち。

生徒が書いた脚本の例。

困っている子には田村さんが声をかけ、原稿用紙に目を通しながら意見を伝えます。
「ただの体験授業ではなく、技術や創造力が身につくプロセスにしたいし、関わった全員が誇りを持てるような作品を作りたい。」ー基礎を大事にしている田村さん。熱意溢れる口調でそう話していました。

やり取りを繰り返し、少しずつ形になってきます。

この日は、日が落ちるまで脚本制作に取り組み、次の日まで続きました。

9/24(日)アウトプット制作4日目

視覚を活かした表現を学ぶ〜映像の設計図、絵コンテづくり〜

続く9/24(日)は、脚本執筆が終わった人からストーリーボード(絵コンテ)制作に取りかかりました。

絵コンテとは1つのカットを説明する図のこと。被写体の構図やカメラの動きなどの内容が書かれてます。

映像は、見せたいものをカメラのレンズの枠にはめることで、強制的に観客を被写体に注目させることができます。アップで見せたり、ゆっくりレンズを離したり、カメラの枠を使って作者の意図を発揮できる、と田村さんが解説をします。

これまではイメージをことばで描写することに集中してきた生徒たち。
この日は視覚を活かした表現方法を学びました。

絵の得意不得意に関係なく、全員が絵コンテづくりに挑戦。映像のイメージが膨らんでいきます。

中学生の絵コンテの例。田村さんが赤ペンを入れ、厳しい修正を重ねます。

絵コンテづくりを通して、カット割りを具体的に考える機会となり、カメラの眼の感覚をつかむ実践的な学びになりました。

アイデア創出からストーリーづくりまでー自らの創造力と向き合った4日間

さて、これで映像作品のストーリーづくりの作業は終わりです。次週以降制作した脚本と絵コンテをもとに映像の撮影を行います。

アイデアの発想から、ものがたりの組み立て方、脚本の書き方、そして絵コンテ制作まで、ストーリーライティングの専門技術の内容が盛りだくさんだった4日間。

どんなストーリーをどうやって伝えるかを考える訓練になっただけでなく、映像作家がどんな工程でストーリーをつくっているのかを知り、制作者の意図を感じ取ることができるようになったのではないでしょうか。

制作初日は大人しい印象だった中学生たちが、徐々に他の参加者と意見を交わしたり、人前で堂々と発表できるようになり、このアウトプット制作が中学生たちの自由な発想や創造性を伸ばすだけでなく、自己表現や主体性を高める大きなきっかけになっていることがうかがえます。

普段の学校の授業では、授業を受動的に聞き、創造性よりも正しい回答を求められることが多いであろう中学生たち。アイデアをだすことや意見をいうこと、創造的であることに知らず知らずに苦手意識を持っていたのかもしれません。

しかし、今回のアウトプット制作前半戦を通して、「アイデアをうむ」ということや「つくる」ことは特別なことではなく、技術を学べば誰でも表現の幅は広がっていくということを実感でき、自分たちの新たな可能性を発見できたのではないでしょうか。

次はいよいよ機材を使った実習、そして作品の撮影です!

(後編へ続く)

著者:寺井彩( EXIT FILM inc.

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