SCHEMA Inc.
パフォーマー
橋本健太郎
引き合わせたら何かが起こる。そんな予感はありました。
-『横瀬クリエイティビティー・クラス』において、横瀬町出身の当事者でありながら東京のクリエイティブカンパニーで働く橋本さんはキーマンといっても過言ではないように感じます。このプロジェクトを企画したきっかけってなんだったんですか?
横瀬側、東京のクリエイター側のそれぞれのタイミングが合致したことです。
まず横瀬側のタイミングからお伝えしますね。2016年に地元のつながりで、たまたま横瀬町役場で働く田端さんたちとネットワークができたんです。そのときから田端さんのエネルギー量はすごくて…同時に「横瀬町をどうにかしなきゃいけない」という課題感も強かったように思います。
クリエイター側の話をすると、その頃今回のプロジェクトの主催者であるEXIT FILMの田村祥宏さんとGardenEightの野間寛貴さんと仲良くなって、彼らが過去に手がけた『KUROKAWA WONDERLAND』(※)のことを知ったんです。
それで、単純に両者を引き合わせたら何かが起こるんじゃないかと思って。でも、田村さん・野間さんと横瀬町へ足を運び、実際に田端さんに会わせてみたら本当に意気投合しちゃって。個人的には『KUROKAWA WONDERLAND』の焼き回しでもよかったんですけど、田村さん・野間さんが「他の地域と同じことやっても意味がない」とバッサリ(笑)。ストイックに議論を重ねるうちに出てきたキーワードが「ハッカソン」だったんです。町民を巻き込んでチームをつくったらおもしろいんじゃないかって。
※…熊本の黒川温泉を舞台にした映像作品。田村さん、野間さんのポートフォリオワークで、海外のアワードを数多く受賞した。
クリエイティブ業界において、横瀬町の印象は少しずつ変わってきている。
-とはいえ、クリエイティブソンの開催には町民だけではなく、クリエイターの参加も不可欠ですよね。
最初は不安でしたよ。町民もそうだけど、忙しいクリエイターたちをどうやって集めるのか。でも、日を追うにつれ田村さんから「AID-DCCのプログラマが興味を持ってくれた」「今度はSHIFTBRAINが…」って連絡が次々に届いて…正直嘘かと思いましたね(笑)。
改めて田村さんの熱量というか、巻き込み力はすごいな、と。
-田村さんの熱量がクリエイティブソンを開催にこぎつけたんですね。
それでも、当日は不安でしたけどね(苦笑)。運営側とは温度差があることは明らかだったので、本当にうまくまとまるのか、と。でも、旧芦ヶ久保小学校で2日間を過ごして、当日のプログラムをクリアしていって、参加者の気持ちがひとつになっていくのがわかったんです。それは本当に驚きで。
クリエイティブソン自体もすごく盛り上がったんですけど、僕が感動したのは開催後の参加者たちの取り組みですね。たとえば、Huuuu Inc. の柿次郎さんや総務省の太田さん。彼らがブログを書いてくれたんですよね。情報発信したということは、何かしら感じるもの・得るものがあったという証拠なので……ようやく不安はなくなり、「やってよかった」という気持ちになりました。
1回やってしまえば、2回目はやりやすいんですよね。クリエイティブソンだけではなく、中学生向けのキャリア授業に関しても、実際に「興味がある」「やってみたい」と声をかけてくれているクリエイターもいるので。少なくとも僕らの周りのクリエイティブ業界にとって、『横瀬町』という地域の印象は変わってきていると思います。
『横瀬クリエイティビティー・クラス』の未来。
-橋本さんにとって横瀬町ってどういう場所なんですか?
横瀬町だけじゃないかもしれないんですけど、秩父の人って秩父が好きなんですよ。そして、足さえ運んでもらえれば楽しんでもらう自信がある。それは、クリエイターに来てもらうとしてもその自信は揺らぎません。小旅行するには本当にいい場所なんですよ。
最近は秩父に追い風が吹いていることを感じます。秩父駅の前に温浴施設がオープンしたり、秩父を舞台にしたアニメが放映されたり、地元のウイスキーが注目されたり…西武鉄道も力を入れ始めたので、ますます魅力的な場所になっていくと思います。
-最後に、今後の展望について教えてください。
横瀬町には、田端さんのようにパワフルな人もいますが、当然そうでない人もいます。だから、田端さんのような自走できる力がない人たちを動かしていくことが目標ですね。
秩父地方の人って、土地柄かもしれませんが閉鎖的なところがあるんです。自分たちだけで完結したがるというか。でも、それだと飛躍的な発展は望めませんよね。もっと外のアイデアを取り入れることで地元の人にとっても、クリエイターにとってもハッピーな場にしていきたいと思っています。
あと、今は田村さんや野間さんが主導してくれていますが、彼らもいつまでも横瀬町のことを考えてくれているわけではないんです。地元のメンバーを中心にどうやって『横瀬クリエイティビティー・クラス』を続けていくか、プログラムのゴールをどうするかを考えることは、今後の課題だと考えています。
幸か不幸か、横瀬町出身でクリエイティブ業界で働いている人間って知っている限りだと僕しかいないんですよね。田村さんと田端さんを引き合わせたように僕にしかできないことって必ずあるので、もっとがんばらなきゃいけないと感じています。そして、横瀬町の人たちが盛り上がるような流れをつくっていきたいですね。
著者:田中 嘉人( Huuuu Inc. )